「イノベーション」という言葉に縁があるとは思っていなかったですが、ここ最近、ちゃんと勉強しないといけないのでは思いつつあります。
イノベーションとは、単に技術進歩だけではなく、顧客挙動の変化や、その価値観の変化、社会制度、慣習の変化などを巻き込んだ「総合的な事象の変化」を言います。
著者はNECでの研究開発社員としての25年間の中でも、異分野であった卓上型レーザープリンターの開発に携わった経験を元にしながら、「新しい形のイノベーションをいかに創出するか」について議論しています。
イノベーションの箴言として各章末に一般論が記されてあります。全部で37句あります。そして、巻末に、筆者の考えるイノベーション論が示されています。こういった言葉から遡る感じで本書を読んでいます。
箴言4「未知な世界を学ぶには、謙虚な質問力に尽きる」
箴言29「専門家や、先人に、質問する勇気を持つべし」
あたりの言葉に興味を持ちました。自分の経験からしても、いい質問する人って、「できる人」が多いと思うからです。
箴言9「技術開発に拘ると、イノベーションは起こせない。市場変化に注力」
についても、研究者の自己満足に陥ってはいけないという耳の痛い言葉でもあります。
著者は、イノベーションには、ヘーゲルの唯物弁証法をベースにしたイノベーション分野での唯物弁証法、すなわち「弁証法的螺旋思考」が次のイノベーションを創出する必要十分条件だと主張しています。
ヘーゲルの弁証法は「矛盾から新しい考え方を生み出すプロセス」であり、問題を解決する際に対立する2つの事柄について両者を切り捨てることなく、より良い解決方法を見つけ出す思考方法のことです。つまり、否定や矛盾から新しい高次の考え方を生み出すプロセスです。ビジネスシーンでも活用されており、対立する2つの意見がある時、二者択一や是か非かといった、どちらか一方を排除する議論ではなく、2つの意見を保ちながら第3のよりよい意見へ高めてゆくという議論の仕方がとられたり、あえて反対の意見を考えることでアイデアをブラッシュアップできたりします。
ヘーゲルは、弁証法により望ましい状態に進むことを「アウフヘーベン」と読んでおり、日本語では、「止揚」と訳されます。ドイツ語の 「aufheben」 には、否定する、保存する、高めるという3つの意味を持ちます。
クレイトン・クリステンセンが、1997年に提唱した「イノベーションのジレンマ (英: The Innovator's Dilemma)」という理論があり、巨大企業が新興企業の前に力を失う理由を説明した企業経営の理論です。優良企業は、持続的イノベーションのプロセスで自社の事業を成り立たせているため、破壊的イノベーションを軽視します。破壊的技術(英: disruptive technology)とは、従来の価値基準のもとではむしろ性能を低下させるが、新しい価値基準の下では従来製品よりも優れた特長を持つ新技術のことです。
著者の云う「弁証法的螺旋思考」は、歴史を分析し再構築する、未来思考法のことであり、「科学技術の進化」「顧客の行動の変化」「社会の要望(パラダイム変化)」を複合化したものです。企業を生物体に準え、多様な環境に投げ込まれた後も絶えず変化する環境への適応を繰り返し、子孫を残していく生き様こそが、企業の本質的な姿です。生物が淘汰を免れるためには、不適な環境からの逃避、競合相手との闘争、天敵への防御機構の獲得、活動量の低減による休眠など、多様な戦略があるわけですが、生物体のごとく自己組織化した企業にとっても、強い淘汰圧を免れ、より多くの子孫を残す生物のしたたかな適応戦略からは、イノベーションの極意を読み取ることができると解釈しています。