科学・技術と倫理

村上陽一郎さんの「科学の現在を問う」という本を読んでみた.第5章の「科学・技術と倫理」が興味深かった.といっても違和感を感じたわけではなく,よくまとまっているなと感じた.
自らの好奇心の赴くままに,俗界を離れて,ひたすらに真理を探究することに勤しむものであるという科学者のイメージを改めなけらばならない時代になった.専門家として,自らの研究成果の,社会に対する負の効果に対して,常に敏感であり,それを抑制する方法の案出にも責任と義務を感じ,またそれを実践できるような,そんな研究者の倫理が,求められている.
やはりここで問題になっているのは,倫理観である.倫理観といっても範囲は広く,社会的なものと個人的な好奇心,あるいは専門家の中での閉鎖的規範など,様々な倫理を含んでいるので,これを調べるだけでも一つの研究にはなりそうである.
僕が思うのは,学問から「こころ」の問題(倫理)を排除したものが,科学であるというのは,大きな間違いであるということだ.たまに耳にする「純粋な科学」,「好奇心」,「真理の探究」という言葉の裏には,他者や社会の規範に左右されたくないというその人の意思(倫理)が見え隠れしているように僕には感じられる.裏を返せば,それがその人の倫理観なのである.

科学の現在を問う (講談社現代新書)

科学の現在を問う (講談社現代新書)