源氏物語の男君たち / 瀬戸内寂聴

この人この世界 2008年4ー5月 (NHK知るを楽しむ/月)


 先々月に宇治の平等院鳳凰堂へ観光に行ったときに、源氏物語ミュージアムにも立ち寄りました。そこで映像化されていた宇治十帖の浮舟の巻で、最後に、浮舟がきっぱりと出家するところが、とても印象的でいまだに心に残っています。
 本書は、先月にNHKの「この人この世界」で放映された瀬戸内寂聴さんの「源氏物語の男君たち」のテキストです。このテキストを読んでいると、浮舟の巻は、紫式部が描きたかった源氏物語の一つの結論なのではないだろかと思えてきます。すなわち、源氏に愛された女の七割は出家しており、「女人成仏」が幕切れに据えられている点についてです。出家すると同時に心の丈がすっと高くなった感じを読者に与えます。
 一方で、主人公の光源氏ら男君たちですが、女たらしといっても、例えばモーツァルトのオペラ「ドン・ジョヴァンニ」とはまた違った印象を受けるのも事実です。ドン・ジョヴァンニが動物的とするなら、光源氏は植物的です。光源氏は、静的でイネや野菜を育てるように女性に接し、やたらと面倒見がいいというイメージがあります。これは、狩猟民族と農耕民族の違いでしょうか。
 源氏物語は1000年前にここ日本で書かれた小説とされていますが、その分、日本人の深層心理を深くえぐっているようにも思えます。海外の恋愛小説を読むよりも、ある意味では共感できる部分が多いのかなとも思えてきました。