ブルースCDガイド・ブック2.0/小出 斉(2006年)

ブルースCDガイド・ブック2.0


★目次
ブルース・ハイウェイ49
シカゴ/デトロイト・ブルース
サザン・ブルース
イースト・コースト・ブルース
テキサス/ウェスト・コースト・ブルース
ルイジアナ・ブルース/ザディコ
ニューオーリンズR&B
戦前ブルース
ゴスペル
ジャンプ/ジャイヴ
リズム・アンド・ブルース
モダン・ブルース
ポスト・モダン・ブルース


★歴史的名作から隠れた秀作まで約2000枚のCDが紹介されています。地域・スタイル別による構成で、ブルースを体系的に把握できます。巻頭に〈ブルース・ハイウェイ49〉として、基本ディスクが49枚厳選されており、入門者にもよいガイドになりそうです。


自分が十代の頃、今みたいにYouTubeのように便利なものがなかったので、洋楽の情報などは雑誌で仕入れて、ラジオで聴くか、タワレコのブースで視聴するしかなかったです。高校時代は、塾の帰りには必ずタワレコに立ち寄っていました。そこで「ブルーズ特集」なるものが組まれていて、有名なブルーズマンのCDが数十枚紹介されていました。お金がなかったので、CDを買うわけにもいかず、塾の行き帰りに毎回立ち聴きしては、悦に入っている自分がいました。自分もブルーズというものを体系的に把握していないところがあり、本書は教科書としてとても貴重な存在になりそうです。


今思えば十代の頃の複雑な心理状態を「音楽」が受け止めてくれていたのだと思います。思春期にそのような密接な関係を築いた人は、案外、生涯に渡って音楽というものを愛し続けるのではないだろうかと思います。これが別に絵画、彫刻、書道と出会っていたなら、それでいいんだと思います。しかし、自分は運命的に「音楽」に出会ったしまったのです。


音楽療法という心理療法の一種があるようです。音楽を聞いたり演奏したりする際の生理的・心理的・社会的な効果を応用して、心身の健康の回復、向上をはかる行為のことをいうようです。歌唱や演奏を行う能動的音楽療法と音楽を聴くなどの受動的音楽療法の2つに分けられています。


自分は音楽に対しては「注文の多い料理店」のごとく、選り好みが強く、いろんなジャンルの音楽が好きなのですが、基本的には「これが聴きたい!」という本能のようなものに従って音楽を楽しんでいるような気がします。大げさかもしれませんが、これは一種の音楽療法ではないだろうかと思います。そして、音楽を聴いている自分を客観視してみると、それなりには心理状態も分析できるような気もします。


なにはともあれ、ブルーズにはブルーズにしかないものがあると感じています。どれだけ白人が真似をしてみても、あの黒人独特の味は出せないと思っています。エリック・クラプトンやスティーヴィ・レイ・ヴォーンもとても魅力的なミュージシャンで大ファンなのですが、オリジナルのマディ・ウォーターズハウリング・ウルフと比べると何か違うのです。


もちろんブルーズの歌詞は英語ですが、自分はそれほど注意して聴き取っていません。それでも、心が震えるような感覚があります。小林秀雄さんが、ジャズやブルーズには、黒人の嘆きや哀しみがにじみ出ているといったようなことをどこかで書かれていたように思います。自分の感覚では、半分はそう思いますが、半分はそう思いません。なぜなら、リズムやテンポに躍動感を感じるからです。人間本来が持っている生命力を感じるからです。そして、それは風の音や大地のうねりにも聞えます。このようなスピリット(魂)は、遠くアフリカの大地から受け継がれたものでしょうか。魂の震えという意味では、ワーグナーのオペラのモチーフも、ブルーズマンの叫びとギターの響きに共通しているのではと思ったりもします。