Study: 村上春樹の創作過程についての覚書 (2) 初めての物語としての 『風の歌を聴け』/ 山 愛美

時間や空間を超えて行き来しながら,心の集合的な層にまで降りながら物語を創造する「村上春樹」と,個人を超えた集合的な生を生きた「キリスト」に,確かな重なりを見出すことが出来るように思う。

 

村上は,自分にルールを課している。その中の一つは,個人の生々しい具 体的なものは書かないということである。登場人物には名前がない。名前 がないから,区別するためにわかりやすい特徴が必要になる。そこで村上 は,目に見える極めて具体的な特徴を記述する。これは,名前をつけるこ とで,初めからそこに明確な一つの/自我/が存在することを,安易に示してしまわないためではないか。登場人物たちの,外的な差異だけを詳細に記述し,内面的なものは読み手それぞれの読みに委ねているとも言えるのではないか。

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