Music: Wicked Beat (1990)

 

 

B'zには、全編英語のみで歌われた曲が、29曲もあるそうです。初期の頃はミニアルバムの収録曲すべてが英詞ということもありました。ライヴ映像では、アルバム「Epic Day」の付属DVDのライブ(『B'z LIVE-GYM 2012 -Into Free- EXTRA』2012年10月25日 大阪公演)ではセットリストの前半部が英語で歌われています。確か北米ツアー直後だったのも影響していたとか。
でも、どうしてわざわざ英語で歌詞を書いて、歌うのか?と思いましたが、実は、作詞担当の稲葉浩志さんの創作の手順に理由があるようです。B'zの場合、作詞は稲葉浩志、作曲は松本孝弘ときっちりと担当がわかれており、先に松本さんがメロディーを作ります。それに、稲葉さんが歌を合わせていきます。歌詞をのせる際に、英語の歌詞をのせていきます。とりあえずの歌入れの英語は、稲葉さんの好きな言い回しを使い、リズムやメロディ重視でのせていきます。
ですので、逆に言うなら、どうしてわざわざ、日本語の歌詞を書いて、歌うのか?と言えるかもしれません。
英詞で曲作りを進める理由は、色々あるでしょうけど、ロックに日本語は馴染まないと言うのも理由のひとつかもしれません。母音の多い日本語は英語に比べて野暮ったくなるおそれもあります。

B'zの場合は、曲作りの作業を進むにつれ、日本語の歌詞に直していきます。内容は、映画や小説を読んだりしてコンセプトを考えるのかもしれませんが、B'zの歌詞は具体的な対象について歌っているとわかる曲はほぼないように思います。内容は抽象的です。ノリを作るためか、リズムを整えるためか、ところどころ英語の単語が残っています。It's alrightやbabyが多いように思います。英語か米語かというと、米語です。

これもまた逆説的な言い方ですが、英詞の曲を作るのがすごいと言うよりも、ロックに日本語歌詞をのせているほうが偉業かも知れません。日本語の発音を崩すことなく、しかも聴き取りやすく、違和感もなく、日本語として意味もちゃんとわかる。ロックには不向きとされてきた日本語をちゃんと成立させるという画期的なことをさらりとやってのけておられます。
ただ、最近のインタビューで、稲葉さんが、日本語にしか表現できない響きやニュアンスもあるとも言っておられます。

まるで平安時代に、ひらがなで文学を創造した紫式部清少納言のようですし、漢詩が中心だった江戸末期から明治時代に、外来の言葉を巧みに駆使して私小説を創造した芥川龍之介森鴎外夏目漱石のようです。