現実の世界との 「繋がり」に対比されるのが羊男のいる「こっちの世界」である。このあちらとこちらの対 比は 『ダンス・ダンス・ダンス』 の最後の場面でも出てくる,ここで羊男がいる異世界側が通常 「あちら 側」 と表現されるが,村上春樹の多くの作品に通底するテーマでもある。 「ステップを踏んで踊り続ける」 と,現実世界への橋渡しとなる機能であり, クライ ン派的に考えると象徴形成や象徴化に当たるだろう。しかし,「意味なんてもともとない」「どれだけ馬鹿馬 鹿しく思えても」 などの表現に現れているように,この 「踊る」 ことは否定的なニュアンスで虚無的に捉え られている。 この 「踊るんだ」というルールは,現実との繋がりという肯定面と意味のない虚しさという否定面を併せ持つパラドックスである。