Study: As Saturn Shakes, Ring Dances. New York Times. Intl. Weekly. September 12, 2021.

タイトルは、「土星が振動するとき、環がダンスする」

土星の氷の環は、不思議で魅力的なだけでなく、美しい音を収録した録音帯(サウンドトラック)でもある。

土星の中心部(コア)は、水素ガスに覆われており未解明な部分が多いのだが、激しく振動することがわかっている。この振動が生じると、局所的に磁場が入れ替わり、土星のC環(C ring)を構成する小片(塵や氷の粒)が引き寄せられる。その結果、小片がダンスするかのように動かされ、螺旋状の波(螺旋波)が生じる。

・詩的な表現をするなら、土星はいわば交響楽団(オーケストラ)である。この場合、土星のC環の構造は、五線譜に並ぶ音符とも言える。科学者らは音楽家さながらに、楽譜を読み、音楽を聴き、個々の楽器を特定し、楽団員の演奏を鑑賞する。ただし、オーケストラの全体像を観察することはかなわないのであるが。

・2017年に終了したカッシーニ探査機のデータを基に、科学者らは土星のC環が演奏した交響曲を聴き、分析批評してきた。その結果、土星のC環の振動が、土星内部の構造を解明する上で手掛かりになることを報告する論文が、Nature Astronomy に掲載された。

・その論文では、土星のコアは予想されていたよりも巨大で、惑星の半径の60%にまで及び、コアの質量は地球の55倍もあることが示唆された。他の惑星が金属、岩石、氷といった固体で構成されるのとは違い、土星のコアは金属水素に岩石や氷が混合したアマルガム(合成物、合金)である。この発見は、他のガス惑星、例えば木星の成り立ちを解明する役立つことが期待される。

・固体の表面を持つ地球、月、火星の内部の地形は、異なる地層の地震波を測定することでマッピング(図面化、測量、位置付け)されてきた。しかし、土星のコア表層は、固体でないため、この測定方法は利用できなかった。ガス惑星の場合、惑星の軌道を回る探査機が磁場の変化を検知し、コアの表層を測量する方法もあるが、土星の場合は磁場の変化が微細なため利用できなかった。

・しかし、ボイジャーカッシーニ探査機が収集した土星の環の特異な螺旋波の観測データが、土星のコアで生じる非常に大きな振れ幅を持つ揺れによって引き起こされていることに論理的妥当性があると判断された。この測定技術は、クロノサイズモロギー(kronoseismology土星地震学)と呼ばれる。kronosとは、ギリシア語で「サターン(土星)」、seismoは「揺れ」のことである。

 

キーワード

C Ring C環(シーかん)
C環は、幅広いが薄い環であり、B環の内側に位置する。1850年にウィリアム・クランチ・ボンドとジョージ・フィリップス・ボンドが発見したが、ウィリアム・ドーズとヨハン・ゴットフリート・ガレも独立に観測した。明るいA環とB環よりも暗い物質で構成されているように見えることから、ウィリアム・ラッセルは、「クレープ環」と呼んだ。この環の厚さは約5 m、質量は約1.1 × 1018、光学的深さは0.05から0.12と推定される。D環で発見された30 kmの波構造は、2009年の土星の分点における観測で、C環を通り抜けて広がっていることが分かった。(Wikipedia

kronoseismology 土星地震
ティスカレーノ氏によると、土星の内部の質量とその不規則な振る舞いが環を波立たせる可能性が最初に証明されたのは1990年代初頭であった。そして、米アイダホ大学のマシュー・ヘドマン氏のチームの最近の研究により、土星の環にできる波を使って土星の内部で起きていることを明らかにする「土星地震学(kronoseismology)」ができあがった。なお、この概念が最初に提案されたのは1982年のこと。(National Geographic

core コア
ガス巨大惑星である土星を調べた。土星は一般に、水素とヘリウムを主成分としたエンベロープに取り囲まれた金属のコアを持つと考えられている。著者たちは、重力データと土星の環の振動観測データを組み合わせることで、土星の内部構造についての新たな知見を得た。彼らは、土星のコアが、これまでの推測よりもかなり大きく、その半径のおよそ60%まで広がっていて、コアとエンベロープが明確に分離しているのではなく、コアが重元素と結び付いた水素とヘリウムの拡散混合物からなることを明らかにした。(Nature Astronomy